うちレポ予報2020 家を買うのに今年は追い風?向かい風?

Vol.1 東京カンテイ 井出氏に聞く

2020年は運命の分かれ道? 住宅市場の未来予想

2020年東京オリンピックが間近に迫る中、住宅市場の変化について、様々な予測や憶測が飛び交っています。では本当にオリンピック終了後に、住宅市場に大きな変化は待っているのでしょうか。不動産に関する様々なデータを基に、住宅の市場動向を分析している東京カンテイの上席主任研究員、井出武氏に話を聞きました。

東京オリンピック後のマンション価格暴落は早とちり?価格高騰はまだまだ続く

「東京オリンピック後は新築マンションの価格も下がりますか?」という質問を多く受けます。もちろん可能性を否定することはできません。しかし今のところ新築マンションの価格が下がる要素が見つからないというのが、現状の分析です。

新築マンションの供給戸数は確かに、大幅に減少しています。2019年の首都圏における新築マンション分譲戸数は約4万2000戸。ワンルームを除くと3万戸強ですが、これは30年ほどさかのぼらないと出てこないくらい少ない数値です。

一方で平均価格は変わらず上昇傾向にあります。理由として、郊外型の大規模マンションが少なくなっていることがひとつ挙げられます。かつては駅から距離が離れていても、価格が安く、専有面積が広いファミリータイプのマンションが多く見られましたが、建築費の高騰や、マンションニーズが駅徒歩7分圏内に集中したことで、事業として成立させることが難しくなってきているという背景があります。

市場価格を押し下げていた郊外型のマンションが減少し、ニーズが見込める都心アクセスや生活利便性の高い人気エリアに供給が絞られてきていることで、当然ながら開発コストも高くなり、新築マンションの市場価格が相対的に上昇しているのです。

時短というワードがあっという間に拡散したように、都心により早くアクセスできるエリアで、駅からより近くというマンションニーズの狭域化が加速したことも、マンションの市場価格を押し上げる一因になっているのではないでしょうか。

元々マンション分譲事業は多大な開発コストもさることながら、用地の仕入れから販売までの事業期間がどうしても長くなり、その間に市場の変化が起こりうるリスキーな事業です。仕入れた土地を寝かせておくだけの余力、販売期間が3年5年と長期化しても経営が揺らがない地力のあるデベロッパーが生き残り、市場の寡占傾向が強まるのは自明の理です。そして大手デベロッパーがマンション供給をコントロールし、市場を支えている限り、市場価格が暴落することはないと考えられます。むしろますます寡占状態は顕著となり、価格は上昇すると見る方が自然ではないでしょうか。

マンション価格の高騰の理由を東京オリンピック・パラリンピック関連の開発による人件費や建築資材の高騰とする声もありますが、オリンピックは数あるイベントのひとつでしかなく、オリンピック関連の開発がひと段落したところで人件費や建築資材の価格が一気に下がるとは思えません。渋谷駅前の再開発、JR山手線の「高輪ゲートウェイ」駅や東京メトロ日比谷線の「虎ノ門ヒルズ」駅など、大規模な都市開発事業は他にもたくさんあります。

もちろん市場ニーズに合わない物件は価値が下がり、淘汰されていくことにはなるでしょう。しかし新築マンション市場に引っ張られて中古マンションの価格も緩やかではありますが上昇しており、物件個別で見れば格差は大きくなっても、マンション市場全体が大きく冷え込むとは考えにくいというのが結論です。

株式会社東京カンテイ 市場調査部 上席主任研究員 井出 武氏

2019年の新築マンション一戸平均価格は前年比+5.6%と大きく上昇している
【データ出典:株式会社 東京カンテイ】

2019年は新築一戸建て市場に動きあり?戸建人気の意外な理由

2019年の住宅市場の動きを見ると、全国的に新築一戸建ての供給戸数が大幅に増えています。年々マンション比率が高まっている首都圏でこそ供給戸数は減少していますが、それでも新築マンションを大きく上回る約5万2000戸(集計時期が早かったため、6万戸弱まで増える見通し)が供給されています。

高額化の影響でマンションニーズは資産形成や投資の傾向が強まる一方で、実需のニーズが一戸建てに流れ始めているようです。新築一戸建ては供給量の増加に対して価格が下がったわけではなく、相場はそれほど大きく変動していませんが、マンションとの価格差が徐々に大きくなっているため、相対的にお買い得に映るようです。

マンションと違い100㎡、200㎡という土地があれば一戸建ては建てられます。建築に必要な人手も数人で済むうえ、木材の価格もそれほど値上がりしていないようですから、マンションよりも事業展開は容易です。

その反面、マンションのように共用施設や設備のグレードなどの付加価値を盛り込むことが難しく、市場価格が上昇していないという側面もあるようです。

また、新築マンションが駅徒歩10分以内に集中しているのに対し、一戸建ては徒歩15分を頂点に、遠近両方に幅広く分布しています。不動産会社の方々から話を伺うと、新築一戸建ては駅から離れていても、エリアの相場に見合った価格で販売されていれば堅調に売れているそうです。

また、駅徒歩20分以上のエリアでも、低価格帯の一戸建てでは、日本に長年在留し、銀行から融資を受けられる外国人の需要が増えているといいます。今、一戸建ては自由で開放的なマーケットを形成していますので、住宅購入を検討する際に、選択の幅が広がるのではないでしょうか。

グラフ:首都圏2019年 新築一戸建て住宅の徒歩時間別分譲戸数分布
【データ出典:株式会社 東京カンテイ】
※首都圏:東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県
※最寄駅からの徒歩時間別に、2019年1月1日から同年12月31日までに新規分譲された一戸建て住宅を対象に調査(但しバス便物件を除く)

住宅市場の動きは社会の縮図?価格上昇の行き着く先は・・・

近年多様化するライフスタイルに伴い、利便性を求めるのであれば、必ずしも住宅を購入する必要はないという動きも出てきています。呼応するように、大手デベロッパーも都心アクセスの良いエリアで、分譲マンションと同グレードの賃貸マンションを次々と展開しています。

住宅は必ずしも買わなくてもいいものという認識が広まるとともに、マンションが高額化するにつれ、マンションを所有するということが、宝飾品やファッションのようにひとつのステータスになってきているようにも感じられます。

もし環境の変化にライフスタイルを適応させることができるのであれば、郊外や地方で空き家や広い土地を購入し、不動産の価格競争から逃れて穏やかに暮らすのも、選択のうちのひとつと言えるかもしれませんね。

ネットワークの発達で場所を選ばずに仕事ができたり、どこにいてもパソコンやスマホで買い物ができる時代。思い切った移住も現実的な選択肢になってきているのかもしれない