旭化成の発祥の地、宮崎県延岡工場を視察 住宅部門を担うホームズの業務をサポート

旭化成といえば、サランラップや繊維のベンベルグが有名ですが、実は住宅部門が総売り上げの3割を占めているというのをご存知でしょうか。創業97年(2019年3月現在)の老舗総合化学メーカーとして今日、総資産2兆3161億円という大企業に成長しましたが、その始まりは1922年に開設した宮崎県延岡市の肥料製造工場からでした。今では、繊維・ケミカル・エレクトロニクスのマテリアル部門と、住宅・建材の住宅部門、そして医薬・医療・クリティカルケアのヘルスケア部門の3分野を軸に事業を展開しています。

そのなかで住宅部門を担う旭化成ホームズは、遡ること約半世紀、1972年に新築一戸建て住宅「へーベルハウス」を主力商品とするハウスメーカーとして誕生。今日の旭化成の屋台骨として大きく成長してきました。今回、同社の事業をサポートしている旭化成延岡支社の視察とともに、自らも新入社員のころ延岡のベンベルグ工場に勤務した経験を持つという川畑文俊社長にお話を伺う機会に恵まれました。そこで、旭化成ホームズが見据える、今後の展開について熱く語っていただきました。(取材・文/松本英雄)

旭化成は、“延岡新興の母‟ 五ヶ瀬川など河川に恵まれた城下町で約1世紀前に誕生

宮崎県延岡市は、九州で2番目に広い面積を誇り、2019年3月現在の人口は約12万人の城下町です。同市の誕生は、旭化成の母体となる旭絹織の創立者・野口遵(のぐち したがう)氏が、肥料製造工場を誘致する際に、町を一望できる愛宕山に登り、持っているステッキでグルリと指しながら「この土地を工場のために譲ってほしい」と地元村長や村会議員に伝えたことに端を発すると言われています。その後、1930(昭和5)年に三町村が合併し、工場の誘致で人口が急増。3年後の1933(昭和8)年に延岡市が誕生したそうです。旭化成はいわば、延岡新興の母であり、その創設者である野口遵氏が作った町ともいえるのが延岡市なんですね。

そんな延岡市ですが、五ヶ瀬川など多くの一級河川が市内を流れる豊かな水郷でもあり、また、可愛岳(えのたけ)のふもとに位置しているこの場所は、天孫ニニギノミコトの終焉地(天孫降臨の地)としても古くから伝えられています。西南戦争の折、西郷隆盛もその伝承を信じて宿陣。宮内庁からも天孫ニニギノミコトの御陵墓参考地として治定されています。

因みに、旭化成延岡支社では、創業以来、五ヶ瀬川水系の水力発電所からの送電で事業活動をしており、現在は、合計9カ所の水力発電所(最大出力合計5万6840kW)を所有し、延岡地区工場群などに電力を供給しています。

五ヶ瀬川の上流に位置する神秘的な光景の高千穂峡。峡谷内には日本の滝百選に指定されている名瀑「真名井の滝」があり、1934年には「五箇瀬川峡谷」として国の名勝・天然記念物に、 1965年には祖母傾国定公園の一部に指定されている

障がい者雇用で特例子会社「旭化成アビリティ」設立 住宅図面等を電子化登録

見学会のはじめに、旭化成ホームズの事業をサポートしている旭化成アビリティという会社を訪問し、同社延岡営業所長の工藤通洋さんに案内していただきました。

旭化成アビリティは、旭化成の特例子会社として1985年8月に設立。つまり、国が定めた障がい者雇用率制度に特別な配慮をした会社なのです。従業員335名のうち、何らかの障がいを持つ人が292名と、実に9割近くを占めているといいます。

また、全国5カ所の営業所(東京・千代田区、静岡県富士市、大阪府、岡山県、宮崎県延岡市)では、旭化成ホームズを始めとするグループ会社のデータ入力、ホームページ作成、CAD(※1)入力などを行っています。旭化成ホームズから送られてくる住宅図面の電子化登録も行っており、2019年3月現在までに約10万戸のデータを登録。賃貸住宅の定期点検やリフォーム用に、過去に手書きされたものも含めて全ての図面をデータ化し、邸別にシステム管理することで、必要な図面をいつでも閲覧できるようになったそうです。さらに紙データをPDF化したり、新築住宅の施工図面の製本化も手作業で行っています。従業員の皆さんが、障がいによるハンディキャップを微塵も感じさせないほど、活き活きと仕事をしている姿を目の当たりにし、大いに感動しました。

旭化成延岡支社の外観

ホームズ初の業務拠点として入力センターを開設 地元雇用の創出に尽力

続いて訪れた延岡入力センターでは、全国の支店から依頼された「へーベルハウス」の意匠図(デザイン図)、施工図(※2)等のCADによるデータ化や、建築用の部材割付図(※3)の作成などを行っています。同センターは、延岡初となる旭化成ホームズの業務拠点として、2004年に開設されました。開設当初は21名だった社員も、今では92名に拡大。延岡のほか、東京、大阪にも拠点があり、総計310名を擁していますが、規模は延岡が最大とのこと。そんな延岡入力センターでは、月ベースでCAD図を約8000件、部材割付図だと約3000件を実施しているそうです。

ところでなぜ、旭化成ホームズの住宅関連の事業が延岡にあるんだろう?と疑問に思いませんか。その答えは、同社の理念にあります。それは円滑な相互理解とコミュニケーションが取れる関係性を最重視するとともに、創業の地、延岡での雇用創出を図っていくという理念の下、安易に実験費の安い海外に拠点を、という選択肢を取らなかったといいます。こうして旭化成アビリティも入力センターも旭化成ホームズの業務改革や働き方改革を支えているそうです。

因みに、延岡支社のシンボルであるオレンジと白の横縞模様の煙突ですが、30年に一度のペースで再塗装しているそうです。2019年が丁度30年の周期らしく、時の流れに思いを馳せるとともに、歴史の節目に立ち会えた偶然に、感慨深いものを感じました。

株式会社 旭化成アビリティ 代表取締役社長 押本 和行氏

川畑社長、旭化成ホームズの今後を熱く語る!

1982年に旭化成ホームズに入社したという川畑社長。「当時は、全国から新入社員全員が旭化成創業の地、延岡に集まって入社式を行いました。1~2ヶ月くらい、この地で研修を受けたものです」と懐かしむように、振り返ります。

「後半の一週間は24時間稼働のベンベルグ工場の紡糸工程のチームに配属されて三交代勤務で働きました。最終日には、住宅事業部門長付で住宅事業に配属されたことが、今日の礎となっています。その後、旭化成ホームズとして、新宿本社でもう一度、入社式を行いました。今日は久しぶりに現場を見て懐かしさがこみ上げてきました。延岡という街は、五ヶ瀬川など川が多く流れていましてね。また、人口の割には飲食街が多いのも特徴です。食べ物は非常に美味しいですよ」と“延岡愛”全開で語ります。

その後30分間にわたり、旭化成ホームズの2018度のトピックスと2019年度の事業展開について熱弁。あまりに膨大なので、以下に内容を要約しました。

旭化成ホームズ株式会社 代表取締役社長
兼 社長執行役員 川畑 文俊氏

【2019年度の事業への取り組み】

川畑社長がまず掲げたのが、近年、力を入れているシニア事業として、高齢者向け賃貸「シニアvillege」の普及を図っていくこと。
「上半期(2018年4月~同年9月)末で累計受注は72棟(326戸)となり、2019年度中の100棟達成を目指しています。これまでの累計棟数は、226棟(948戸)となりました。今後は、住宅のほかに要介護施設のシニア向け施設も視野に入れて事業を推進していきます」

さらに海外事業本部と業務改革・IT戦略本部を新設したことから、グローバル戦略の強化にも言及。「海外事業本部は、先に進出している台湾、北米、オーストラリア等の事業を強化していきます。また、業務改革・IT戦略本部では、生産性の向上と働き方改革を推進していくため、デジタルマーケティングを強化していきます。例えば、ITを活用したコネクテッドホームなど様々な取組みを加速していき、お客様にとって新しい価値創造を目指し、つながりをこれまで以上に強固なものにしていく方針です。今年度の売上高は6000億円の見通しですが、2025年度には1兆円達成を目指していく計画です」と力強く語ってくれました。

【旭化成ホームズ 2018年度トピックス】

<旭化成ホームズ全体事業>
2018年11月
2014年の台湾、2016年のオーストラリアに続き、北米にも進出

<新築事業>
2018年4月
人が人を育てる風土、若手が皆で育てる風土づくりの強化を目的とし、全国の新築事業の支店80支店を67支店に集約、支店の大型化を推進

2018年12月
本社を新宿から千代田区神保町に移転。旭化成グループ機能を集約化し、一つ屋根の下でグループ企業の横断的な交流を促すことで、各事業間にある隙間をビジネスチャンスとしていくことが目的。また、経営の意思決定のスピードアップにも期待がかかる

<新築一戸建て「へーベルハウス」>
2018年4月
玄関アプローチを兼ねたアウトドアリビングのある家「のきのまent」を発売

2018年11月
時を重ねていくと深みを増す赤レンガの風合いの新外壁色を導入し、外観バリエーションを強化。また、3階建てでZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準の性能を実現

<新築分譲マンション「アトラス」>
2018年8月
アトラスシリーズ九州初進出。熊本地震で全壊した上熊本ハイツの建替え工事に着手。14階建1棟(184戸)の大規模マンション「アトラス上熊本」として、2020年4月に竣工予定

他、中心市街地活性化事業として倉敷駅前(岡山県倉敷市)、小山駅前(栃木県小山市)、草津駅前(群馬県草津市)のプロジェクトに相次ぎ参画

<リフォーム>
2018年10月
都市型コンパクト3階建てリフォームパックを発売

2018年11月
短工期のLDK改装プラン「LDK2」を発売

<賃貸マンション「へーベルメゾン」>
営業、設計の提案力を強化。付加価値型賃貸のさらなる普及に注力

<ビル開発>
2018年12月
ヘーベルハウスのシステムラーメン構造を中高層建築用に進化させた新躯体システム「ヘーベルビルズシステム」による1棟目の実例が横浜市で竣工
※ヘーベルビルズシステム:上層階での店舗や事務所などの商業用途が想定される4~6階建てをメインターゲットに8階建てまで建設可能な商品。従来の躯体システムでは1階のみに限定していた店舗・事務所を上層階にも設置可能